[AMD] アドバンスト・マイクロ・デバイセズが、3兆6000億円でザイリンクスを買収するという報道が昨年10月にありました。
ただこの買収は、独禁法に抵触しないか等の審査を経てからになるということで、各国当局に承認申請が行われていたのですが、ちょうど6/30に、欧州委員会から無条件の合併承認を獲得したとの報道がありました。
現在、米国と韓国からはすでに承認済み、ちょうど前日29日にイギリスの承認もあったため、
規制当局の承認取得を進め、2021年末までの統合をめざす。
当初のアナウンスどおり、年内の手続き完了に大きく近づいていると言えそうです。
ちなみに今回の買収は、株式交換で買収するため、キャッシュアウトは無いかたちになる模様です。
というわけで本日は、AMDの狙いなどにも触れつつ、
といった、買収の手法について、取り上げてみたいと思います。
ニュースなどでよく目に耳にする言葉だと思いますので、投資をする上でなにがしか参考になりましたら幸いです。
AMDの狙いはなにか?
まず今回、AMDがザイリンクスの買収に至ったその狙いから簡単にご案内します。
AMDはこんな会社
AMDは1969年に発足した、パソコンやサーバー向け(データセンター向け)のCPUと、GPUを手掛けている企業です。
CPUとは
Central Processing Unitの略です。
コンピューター全体の計算処理を担う半導体。頭脳にあたるパーツなので、この性能が高いほど速く動作する。
GPUとは
Graphics Processing Unitの略です。
パソコン上に画像を表示させる処理機能を専門に担う半導体。画像描写専門の頭脳といえます。
前者は [INTC] インテル、後者は [NVDA] エヌビディアが競合になります。
買収先のザイリンクスとは
ザイリンクスは、「FPGA」(フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ)と呼ばれる、プログラマブル・デバイス(プログラミングが可能な半導体)の設計・開発を行っている企業です。
一般的な半導体は、
- 設計時に仕様や機能を定める
- 製造時に①の仕様に沿って全ての回路が固定される
そのため、後から変更する事は出来ません。
この点について、
- ユーザが手許で必要な回路の構成情報を設定できる
- 何度でも再設定することで再利用や修正が可能
これをプログラマブル・デバイスと呼びます。
プログラマブル・デバイスのメリットは?
- 設計・検証コストが抑えらる
- 汎用性が高い
この2点に加え、FPGAは、データセンターでCPUの代わりに使う動きが出てきました。
そのため、インテルも2015年に、アルテラという同じくFPGAを手がける会社を買収したような経緯もあります。
アステラは業界2位でしたが、AMDは今回、業界1位のザイリンクスを手に入れようとしているわけです。
株式交換とは
さて、半導体のお話は以上にして、ここからは買収に手法について触れて行きたいと思います。
昨年10月の報道では、以下のような条件が提示されています。
ザイリンクス株1株に対してAMD株1.7234株を割り当てる
どういうことかと言うと、
- 今までザイリンクスの株主だった人に
- AMDの株式が上記比率で与え・交換され
- みなザイリンクスの株主ではなく、AMDの株主になる
というわけです。
これが「株式交換」による買収です。
AMDはザイリンクスの株主に現金を渡して、株を買い取るわけではないので、懐からお金は出ていかない(キャッシュアウトがない)ということになります。
キャッシュアウトとは
広い意味では、キャッシュ(現金)がアウト(出ていく)することをいいます。
- 商品の仕入
- 資産の購入
- 設備投資
- 借入金の返済
- 株主への配当
などは、現金が減少しますので、キャッシュアウトが生じる行為です。
子会社化では金銭を交付する場合も多いです
ここまでは、今回のAMD-ザイリンクスに絡めて、株式交換の話をしてきましたが、他の事例などでは、金銭を交付する場合も多いです。
日本の例になりますが、NTTによるNTTドコモの完全子会社化がまさにそのケースです。
NTTはドコモの株式の66.21%を所有しており、一般株主が持つ3割強の普通株式をTOB(株式公開買い付け)で取得する。買い付け総額は4.3兆円。
この場合は、4.3兆円というお金が、NTTから一般株主の手元にわたる形になります。
資金の手当が必要
キャッシュアウトになるこの現金を、NTTは手当する必要があります。
そのため、
-
三菱UFJ、三井住友、みずほの3メガが約3兆4000億円を融資
-
残りを日本政策投資銀行、農林中央金庫、三井住友信託銀行が担う
という形で銀行からの融資によって賄った模様です。
子会社と完全子会社
世の中には子会社は数多の数あり、上場会社の中にも、親子上場と言われるような、親会社・子会社ともに上場しているケースも結構あります。
ただこれが「完全子会社」となると話が違ってきます。
「完全子会社化する」ということは、親会社が子会社の全ての株式を保有することになるため、子会社の株式は自由に売買することができなくなります。結果、独自で上場することはできなくなるような次第です。
ザイリンクスやNTTドコモの場合も、「全株式を取得」=完全子会社化になりますので、期日を以って上場廃止となるようなわけです。
以上、本日は最近また良く耳にするようになった買収のお話を、株式交換・キャッシュアウトという切り口で、取り上げてみました。